【I.ENOMOTO デザイナー榎本郁也氏インタビュー・前編】図面に宿る構造美と、進化を遂げたオリジナルパーツの全貌
ブリンクベースにて10月17日(土)からスタートするI.ENOMOTOの新作受注会、トランクショーを前に、デザイナーの榎本郁也さんにお話を伺ってきました。

今回のインタビューでは、SILMOで発表される最新コレクションの構造やディテールから、榎本さんが見つめるデザイン哲学やモノづくりの背景まで、前後編の2部構成でたっぷりとお届けします。
まずは【前編】として、新作3モデルの全貌と、今回新たに開発されたパーツや技術的なアプローチに迫ります。
Q1. 【新作の概要・テーマ】
── 今回発表される新作コレクションの概要について伺わせてください。今回のコレクションにおいて設定されたテーマや、提案しようとされている全体の方向性とはどのようなものでしょうか?
榎本郁也氏(以下、榎本): 今回の2026AWコレクションは、全3モデル(IE038、IE039、IE041)で構成されています。

大きな軸となっているのは、これまで何度も試作を重ねてきた「一山(いちやま)」フレームの中でも、特にユニークな設計が施された「IE024」の系譜に連なるモデルである「IE038」と「IE039」です。そしてもうひとつは、ブランド初期から展開している断面が丸みを帯びたシリーズに、実寸アイサイズ45.5というコンパクトなパントシェイプを切り出した「IE041」です。全体としてユニバーサルでエフォートレスなデザインを目指しました。

今回の大きな特徴は、ほぼ全てのパーツをオリジナルで構成している点にあります。ブランドの初期から「I.ENOMOTOのオリジナリティある要素を増やしていきたい」と考えて開発を続けてきましたが、少しずつオリジナルパーツのバリエーションを増やしていき、今回ついに設計したパーツのみでフレーム全体を構成できるようになりました。
ひとつのパーツを完成させるのに何年も費やすこともあります。そのため今回のコレクションは、これまでの開発の歴史がある種の集合体として実を結んだと言えるプロダクトになっています。
Q2. 【デザインとフォルムの特徴】
── 今回の新作における造形やシルエットにはどのような特徴がありますか? これまでのコレクションと比べて意図的に変化させた部分や、新たなデザイン的アプローチなどがございましたら教えてください。
榎本:「IE038」と「IE039」のフロントはモディファイドラウンドを採用しており、ベースとなったIE024から印象を一新させています。モノブロックヒンジやオリジナルの可動式一山、奥行きのある山型ミリタリーリムといった構成はIE024を踏襲していますが、サイドには新しく開発した「アナトミカルテンプル」を採用しました。

以前のIE024ではストレートテンプルを採用していたため、顔に合わせたフィッティング調整の余地がそこまで多くありませんでした。それに対して、今回新開発したアナトミカルテンプルは、調整を行うフィッティングエリアをあらかじめ明確に区切ったデザインにしています。

部位ごとに求められる異なる機能を視覚的にデザイン処理し、重量バランスやなめらかな掛け心地の持続性、そしてフレームの強度を追求しました。また、カラー展開においてもマットブラックをはじめ、マルーンやブロンズといったイオンプレーティングによる新しいカラーウェイを揃えている点も大きなポイントです。

Q3. 【構造とディテール】
── 榎本さんのデザインには常に明確な構造上の理由があると感じます。新作の中で、最も「構造」が凝縮されている特定のパーツやディテールについて解説いただけますでしょうか。
榎本: 新開発のアナトミカルテンプルです。スパルタ丁番から、力の負担を逃がす応力分散エリアを兼ねた柄へと接続され、そのままイヤーピースまでが一体成型されています。

プロダクトデザインにおいて、物というのは構造とデザインが密接に結びついています。特に眼鏡という道具は、構造そのものがそのまま外部の形として現れやすい性質を持っています。中には上から装飾を施して構造をあえて見えなくする手法もありますが、I.ENOMOTOの場合は「構造のレイヤーそのものがデザインの魅力になる」ことを意識して作っています。
テンプルはフレーム全体の土台となる非常に重要なパーツであり、強度や掛け心地に最も直結する部分です。そのため、たった1本の柄の中にも「重量バランス」「フィッティング」「強度の維持」といった複数の異なる機能が同時に求められます。

ただ直線的にデザインするのではなく、1本につながったテンプルのエリアごとにそれぞれの役割を果たせるよう、必要な形状やラインをロジカルに構築していきました。まさに構造をそのまま形にしたディテールと言えます。
Q4. 【設計における葛藤とロジック】
── 0.1mm単位で調整を重ねられる中で、今回のコレクションの設計段階において最も葛藤した、あるいはロジックを突き詰めるのに時間を費やした部分はございますか?
榎本: 今回は何と言っても、アナトミカルテンプルの開発に多くの時間とコストを費やしました。スケッチから図面を起こし、試作段階を経て最終的な金型に至るまで、何度も検討と監修を重ねています。

この有機的で新しいデザイン言語を持つテンプルの元となったのは、昨年福島の眼鏡店「ヤブウチ」さんとの取り組みで制作した「COYA」というウッドフレームです。木の柔らかい質感を生かしたカトラリーのようなライブラリーテンプルを目指したのですが、そのコンセプトをチタン(βチタン)という金属素材に置き換えていきました。
応力分散エリアを兼ねた柄、イヤーピース、スパルタヒンジという異なる機能をひとつのパーツとして可視化し、描写しています。ブランドに共通するデザイン言語を拡張しながら、これまでに見えていなかった新しい表現を見つける作業は、決して簡単なことではありません。
連結パーツひとつを取っても、姿形の美しさだけでなく、強度や加工性、そして他のパーツとのデザイン的な一貫性や連関に細心の注意を払って設計しています。
Q5. 【素材と技術の昇華】
── 今回の新作で製造現場(工場・職人)と共に挑んだ技術的なチャレンジについてお聞かせください。
榎本: 製造面で特に難易度が高かったのは、テンプルの丁番付近です。通常のフレームとは異なるカーブを描きながら、複雑な厚み構成で形成されているため、βチタンの素材特性(しなやかさやバネ性)を殺さずに形を出す構造計算と、高度な金型技術が必要でした。

βチタンに適切なバネ性を持たせるには、上下プレスでかなり強い圧力を加える必要があります。性能をしっかり引き出しながら、この曲がりくねった複雑な形状をきれいに成型するというのは、まさに福井の職人さんたちが長年培ってきた技術の賜物です。
上下の厚みの変化に加え、左右(軸方向)から見た時にも厚みの構成が複雑に変化しているため、特定の1箇所に負荷が集中して折れたり変形したりしないよう、力のかかり方を逃がす寸法設定を行っています。
一見するとプレーンでシンプルな質感に見えるかもしれませんが、最終的な掛け心地やズレにくさ、手にした時の質感を高めるために、極限まで計算し、研ぎ澄ませた金型構造と設計技術が詰まっています。
(【後編】へ続く)
Text:Junichi Tashiro
【I.ENOMOTO 2026AW NEW COLLECTION TRUNK SHOW】
開催期間:2026年10月17日(土)~ 2026年11月1日(日)
会場:ブリンクベース
営業時間:12:00~20:00
デザイナー榎本郁也氏在店:10月17日(土)13時-17時頃
期間中の休業日:2026/10/19、10/25
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