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【I.ENOMOTO デザイナー榎本郁也氏インタビュー・後編】東アジアの感性、モノ作りの境界線、そして「道具」としての着地点

ブリンクベースにて10月17日(土)からスタートする、I.ENOMOTOの新作受注会&トランクショー。デザイナーの榎本郁也さんへお話を伺った特別インタビューの【後編】をお届けします。

(※前編をまだご覧ではない方はこちらからご覧いただけます)

新作の緻密な構造やオリジナルパーツのこだわりに迫った前編。それに続く今回の後編では、ひとつの図面が生まれるまでの「デザインの一歩目」や、ブランド設立10年目を目前にした現在の立ち位置、そしてただのプロダクトを超えて、私たちの生活に寄り添う「道具」としてのあり方など、榎本さんのさらに深い思考の奥へと潜っていきます。

それでは、後編をお楽しみください。

 

Q6. 【デザインの『一歩目』】

── ひとつの眼鏡が完成するまでのアプローチについて伺いたいです。榎本さんの場合、デザインはどのような「最初のきっかけ」から始まり、図面へと落とし込まれるのでしょうか?

榎本: 「東アジアの感性を反映したアイウェアデザインを生成すること」が、I.ENOMOTOというブランドの最も大きなピクチャーとして根底にあります。そこに至るために、明確なコアバリューを共有したひとつのチームになるよう、毎回のコレクションで各プロダクトにキャラクターを与えてデザインしています。

 

ファッションや芸術全般において、世界的な文化の競争やコンペティションが存在します。歴史的に見ても、日本をはじめとするアジアは欧米のモノづくりを追いかけてきましたが、製造技術では世界トップレベルに達した一方で、ブランド作りやデザインの文脈においてはまだ追従する立場に留まっているという歪み(ねじれ)があります。この状況に対し、自分たちの感性を眼鏡というプロダクトを通して世界に提示し、正常化していくことこそがデザイナーとしての自分の役割だと考えています。

また、ヨーロッパなどでは職人の不足や生産体制の崩壊により、国内で伝統的な手法によるモノづくりを維持することが難しくなっています。その点、先進国の中で今なお「高度なデザインと製造現場が地続きで繋がっている」という環境が残されているのは、日本だけと言っても過言ではありません。この恵まれた環境があるうちに、正しいプロセスで形を遺していくことが大切だと感じています。

ただ表面的なトレンドをなぞるのではなく、アジア人の視力環境や骨格、生活様式に寄り添ったオリジナリティを積み重ね、これまでにない新しい眼鏡の体験を生み出すこと。それこそが、私のすべてのデザインの「一歩目」にあります。

 

Q7. 【人の顔や骨格】

── I.ENOMOTOのフレームは置いてある状態も美しいですが、顔に乗ったときにさらに真価を発揮すると感じます。デザインの段階で「人の顔や骨格」をどこまで計算・意識されているのでしょうか?

 

榎本:レンズを入れてもズレにくく、快適な掛け心地が持続し、掛け外しもスムーズであること。そうした機能性は当然の前提として意識しています。大まかなアジア人の骨格サイズやPD(瞳孔間距離)などは常に頭に置いて設計していますが、かといって「顔の形状に過剰に寄り添いすぎる」ようなデザインにはならないよう意識しています。

なぜなら、機能を追求するあまり人間の生体構造や内臓的なリアルさに近づきすぎると、工業製品としての美しさが損なわれてしまうからです。デザイナーの役割とは、そうした複雑で時に生々しい機能的要件を、美しくパッケージングすることにあると考えています。

また、眼鏡はフレーム単体で完結するものではなく、実際に度付きレンズが組み込まれ、フィッターの手によって調整されて初めて完成する「半製品」です。ブランドとユーザーの間に技術者(眼鏡店)が入ることを加味することも設計において重要な要素だと捉えています。


Q8. 【引き算の境界線】

── デザインプロセスの中で、「これ以上削るとI.ENOMOTOではなくなる」という、ご自身の中で設定している境界線や残す基準はございますか?

榎本: 自分自身の中に絶対的な境界線を敷いているというよりは、むしろ「外側(製造現場や物理的制約)」に境界線が存在している感覚に近いです。

工業製品である以上、構造上の安全性や耐久性、あるいは製造の合理性を失う一線は必ず存在します。眼鏡の世界に携わって10年ほどが経ち、そうした技術的な限界線がどこにあるかが把握できるようになりました。

大切なのは、その境界線を工場や職人さんと対話しながら、どこまで安全にストレッチ(拡張)できるか挑戦することです。先人たちや製造現場がその限界を少しずつ広げてきてくれたおかげで、今の新しい表現が可能になっています。そうした制限の中で合理性を突き詰めた集合体こそが、結果としてI.ENOMOTOの個性を形作っています。

 

Q9. 【思考を届ける『場』の意義】

── I.ENOMOTOの眼鏡は、デザインやディテールの背景を知ると一気に愛着が増すと感じています。ブリンク ベースのような眼鏡の専門店が、その背景を伝える「場」であることについてどう感じていらっしゃいますか?

榎本: 眼鏡というのは「絵と額縁」の関係に似ています。主役である「絵」がレンズであり、フレームはそれを支え機能させるための「額縁」です。本来はレンズを正しくセットし、顔に合わせて最適にフィッティングすることがユーザーにとって最も重要であり、フレームはそのための道具でもあります。

専門店という場所は、ブランドとユーザーの間に入ってその設計思想や意図を正しく翻訳してくれる「良き通訳者」だと感じています。

ユーザーの方が直感的にデザインを選んでいただくのも素晴らしいことですが、ディテールに込められた構造上の理由や、ブランドのバックボーンを専門店スタッフの言葉を通して知っていただくことで、プロダクトに対する解像度が上がり、道具としての距離感もぐっと近くなるのではないかと思っています。

 

Q10. 【実物を手に取るお客様へ】

── 10月17日(土)からブリンク ベースで始まる受注会で、お客様にどんな「体感」を楽しんでほしいですか?

榎本: 今回の新作である「IE038」と「IE039」は、共に非常に軽量でありながら、しっかりと安定感のあるフィッティングが楽しめる一山フレームに仕上がっています。

実は、この鼻元に高さを出した「一山ブリッジ」の構造は、およそ100年ほど前に日本の先人(銀座の松島眼鏡さんなど)が、西洋から渡ってきた眼鏡を日本人の骨格に合わせて掛けやすくするために考案した工夫がルーツにあります。急に生まれたものではなく、歴史的な工夫の延長線上にあるプロダクトです。

一山フレームはパッド付きのフレームに比べて掛ける人を選ぶ面もありますが、もし自分の骨格にぴたりとハマる「シンデレラフィット」を感じていただければ、他にはないスッキリとした視界と素晴らしい快適さを体感していただけるはずです。スペックや知識に縛られすぎず、まずは店頭で直感的に試していただきたいですね。

また、今回の受注会では新作だけでなく、定番として人気の高いラウンドモデル「IE005」や「IE009」の新色ラインナップも揃って登場します。ぜひブリンク ベースの店頭で、実際の質感や掛け心地を肌で感じてみてください。


Text:Junichi Tashiro


【I.ENOMOTO 2026AW NEW COLLECTION TRUNK SHOW】

開催期間:2026年10月17日(土)~  2026年11月1日(日)
会場:ブリンクベース
営業時間:12:00~20:00

デザイナー榎本郁也氏在店:10月17日(土)13時-17時頃

期間中の休業日:2026/10/19、10/25

blinc vase |ブリンク ベース
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定休日:月曜(祝日の場合は翌火曜が休み)
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