秋のパリ展示会帰り、ウイーンの「レジェンド」に会いに
今年の秋は、パリの展示会を後に私は一路オーストリアのウイーンへ向かいました。目的はただ一つ、眼鏡デザイン界のレジェンド、ROBERT LA ROCHE氏(ロバート・ラ・ロッシュ)に会うためです。
ロバート・ラ・ロッシュ。その名は、眼鏡やサングラスの世界で伝説と称される存在。
現在は自身のブランドを売却し、デザイナーとしては引退して約30年が経ちますが、 ロバートさんは今も健在で、活気に満ちた日々を送っています。
今回私は、ロバートさんの自宅を訪問し、彼が個人で所有する未使用のヴィンテージ眼鏡を特別に譲っていただきました。 ロバートさんと会うのは、数年ぶりです。昔の眼鏡についてロバートさんからいろいろとお話を聞けるこの機会は、まさに眼鏡好きにとっての至福そのものでした。
ロバート・ラ・ロッシュ氏とは何者か?
ロバートさんのすごさを語るには、その作品を目にすれば一目瞭然です。彼のデザインには、溢れる創造力と卓越した才能が詰まっています。私自身、長年眼鏡の世界に携わっていますが、これほどまでに幅広いデザインを生み出し、構造や色彩のバリエーションを持つデザイナーに出会ったことはありません。
私が、iPadに収めた備忘録のメモ代わりの今回買い付けたフレームの写真を
一部だけお見せします。(皆様にお見せするつもりで撮っていなかったので、
お見苦しい写真で申し訳ございません。)
さらに特筆すべきは、彼のセンスの良さ。単に奇抜なデザインを追求するのではなく、すべてに計算された美しさが宿っています。それがロバートさんの真骨頂です。シンプルなものから個性的なものまで、デザインの幅と奥行き感があり過ぎます。(笑)
彼の活躍は、1970年代から1990年代にかけてちょうど今から30~50年前のことです。現在第一線で活躍しているデザイナーたちから見れば、「2世代くらい前」のデザイナー。その影響力は計り知れません。彼に影響を受けた世代が次の世代を育み、現在の眼鏡デザインの礎が築かれています。
ロバート・ラ・ロッシュの革新性――「色彩」という革命
ロバートさんが特に注目された理由の一つに、眼鏡の色彩革命があります。今ではカラフルなプラスチックフレームは一般的ですが、当時は画期的な挑戦でした。
彼はイタリアのマツケリ社に長期間滞在し、共にカラフルなアセテート素材の開発に取り組みました。この新素材を自身のコレクションに採用し、瞬く間に広まったカラフルな眼鏡は、業界に新たな潮流を生み出しました。
彼のデザインは、誰も試みたことがない領域への挑戦そのものです。ロバートさんは、眼鏡デザインの未来を切り拓く先駆者であり、「未踏の地に、光り輝く靴の足跡を残す紳士」と表現するにふさわしい人物です。
ロバート・ラ・ロッシュが示す「上品な革新」
ロバートさんの作品には、他では見られない独自の美学が宿っています。それは新しいものへの挑戦と、そこに垣間見える上品さの絶妙なバランスです。大胆かつエレガント、彼のデザイン哲学を表すのにふさわしい言葉です。
世の中には多くのデザイナーがいますが、彼のような作品を真似できる人はほとんどいません。その理由は、彼が持つ圧倒的な創造力と、未来を見据えるフロンティアスピリッツにあります。
今回の訪問で、ロバート・ラ・ロッシュさんの数々の眼鏡を前にし、私は先人たちが築き上げた功績の偉大さを改めて実感しました。その存在感は圧倒的で、「私たち次世代が、その礎にどれだけの付加価値を生み出せたのだろうか」という問いが、自然と頭をよぎりました。
今や市場には安価な眼鏡があふれ、材質やデザインや形状で差別化する傾向が強まっています。しかし、果たしてそれで良いのでしょうか? 眼鏡は単なる顔を飾る道具ではありません。その本質は、人々の視覚を快適にサポートし、文化や経済の発展に寄与してきた、極めて文化的なプロダクトなのです。
夜はロバートさんとワインを傾けながら、共通の友人の話題で笑い合い、穏やかな時間を過ごしました。しかし、その余韻の中で彼の言葉が、私に大きな課題を投げかけたように感じました。眼鏡という文化的プロダクトと真摯にいかに向き合えるか? そして、その未来にどのような可能性を見出すべきなのか? 彼との対話と作品を通じて、改めて深く考える機会をいただいたように思います。
たくさんの眼鏡フレームが、ブリンク外苑前、ブリンク ベースの両店舗に入荷しています。
ぜひロバートさんが描いた作品を手に取ってみてください。
その中に息づく歴史と革新のストーリーに、きっと魅了されると思います。
荒岡俊行