Skip to content

【kearny】 2025ss new collection fair 「konide」デザイナー熊谷富士喜氏 インタビュー|前編

ただいまブリンク ベースでは、発売されたばかりのkearny | カーニー 2025ssの新作コレクションを一挙にご覧いただけるフェアを、8月17日(日)まで期間限定で開催いたします。

今回のフェアでは、新作 「konide」 をはじめ、kearnyの世界観を存分に堪能できるラインナップをご用意しております。自然の造形美と時間の積み重ねをテーマにしたkonideシリーズは、富士山や赤城山をモチーフに、セルロイドという素材で表現した注目の新作です。

 

また、デザイナーの熊谷富士喜さんが8月9日(土)の13時から18時まで在店予定です。直接お話しいただける貴重な機会となりますので、ぜひこの機会にお立ち寄りください。

ただの新作紹介では伝えきれない、kearnyの“今”。8月8日からスタートした「konide」フェアに合わせて、デザイナー熊谷富士喜さんにお話を伺いました。成層火山をモチーフにした新作「konide」についての話から、ディテールに込めた思想、そして改めて“セルロイド”という素材を選んだ背景まで。前編となる今回は、その設計思想に迫ります。


konideコレクションについて

田代:まず最初に新作のコレクションについてお伺いしたいのですが、「konide」という言葉は聞き慣れないと思うんですけど、その意味合いも含めて今回のコレクションについてお伺いできたらと思います。

熊谷:今回、久々のセルロイドということで、僕もちょっと感動してます。やっぱりセルロイドっていいなあっていうのがあって、出来上がった時にあらためて感じましたね。以前、Kシリーズというコンセプトのシリーズを1年間挑戦したのですが、デザインの制限を超えることをやりたくて、加工の難しいセルロイドは使えなかったんです。

熊谷:前回のブリンクベースでのイベントの時の「Tommy」とか「Keith」が久々のセルロイドだったんですけど、そこからまたお休みして、今回「久々にセルロイドでやりたいな」と思って、「konide」というシリーズがスタートしました。

「konide」は、直訳すると「成層火山」という意味です。有名どころだと富士山ですね。

田代:日本の代表的な山ですね。

熊谷:どういう眼鏡を作ろうかなって考えたときに、僕は人工物より自然からインスピレーションを受けるタイプなんだなと、最近になって気づき始めていて。奥さんの実家が群馬県なんですけど、赤城山がすごく綺麗に見える場所で。

山って、見る角度によって全然見え方が違うし、形も表情も違う。奥さんの実家から見る赤城山の形がすごく印象に残っていて、「なんで裾がこんなに長いんだろう?」ってあまり考えたことがなかったんです。それがふと疑問になって、田舎でのやることない時間っていい方に働くんです(笑)。「山を勉強してみよう」と思って。

田代:いやー、熊谷さんらしいですね(笑)。

熊谷:実家に休みに行ってるはずなのに、もうそこから“ディグ”ですよ。群馬にはいい図書館があって、そこにこもってアート系の本や山の本をたくさん調べてました。

その「裾が長い」ってことを調べたら、赤城山って富士山と同じ成層火山だったんですね。さらに調べたら、これは諸説あるんですけど、5万年前とかには赤城山は約5,000メートルあったと言われてる。

田代:それはすごい。5,000メートルって、日本には今ないですよね。

熊谷:富士山でも3,776メートルですからね。普段見慣れている山が実はとんでもない高さだったかもしれないって思うと面白くなっちゃって。

僕、名前が「富士喜」で富士山にはシンパシーもあるんです。でも、富士山が一番じゃなかった時代があったっていうのも面白くて。調べてみたら、台湾が日本だった時代は台湾の山のほうが富士山より高くて、富士山は2位だったんですよ。

 

 

田代:知らなかったです。

熊谷:今は台湾は日本じゃないので、富士山が再び1番に返り咲いたっていう。そういうのも全然知らなかったんですよね。意外と、富士山って「1位争い」をしてた時期がある(笑)。そういうこと調べてると楽しくて、そこから「成層火山」とか「赤城山」とか「富士山」っていうキーワードから眼鏡を作りたいな、って思って生まれたのが今回の「konide」なんです。

田代:自然からモチーフを取るって、kearnyらしいですよね。

熊谷:「nupuri」とか「uhuy」とか、山シリーズがありましたね。だから今回の新作「konide」は、kearnyらしさを特に強く感じると思います。



「山」をフレームデザインのどこへ落とし込んだのか

田代:具体的にはどうやってその赤城山というものを落とし込みましたか?

熊谷:まずブリッジですね。この段差に赤城山を入れさせていただきました。

田代:パッと見、気づかなかったですね。

熊谷:そしてブリッジのここです。このブリッジ下の空間を富士山に見えるように作りました。僕はここの空間を鍵穴とかでデザインしてきたんですけど、山に見えるようにデザインしたのは初めてです。富士山より赤城山の方が大きかったんだよ、という話から、ブリッジに赤城山、ノーズパッド下に富士山という配置にしました。

田代:なるほど。確かに、鍵穴のデザインだったらこんなに綺麗に山には見えないですよね。

熊谷:そうなんです。この鼻に掛かる部分の空間をデザインとして主張するのは、意外と聞いたことがないなと思って面白くなっちゃって。

田代:確かに、空間の形状に名称をつけるっていうのはないですね。新発想ですね。

熊谷:こんな長い歴史の中で意外とないみたいな。本当にそれを思いついた時は、1人で笑っちゃいましたね。

田代:このテンプルの山もいいですよね。

熊谷:これは静岡側から見るちょっと横に伸びてる富士山です。

 

田代:置いたときにすごく綺麗に山だなあという感じがしますね。

熊谷:あとはもうちょっと山の要素も入れたいなと思って、フレームの高さですね。今回の重要なポイントです。

田代:はい、「高さ」。

熊谷:フレームの縦の天地の総丈のサイズを、今回テーマにした富士山と赤城山の山のサイズの1/100000を取って作っています。

「konide-2」「konide-3」は赤城山が5,000メートルあった想定で1/100000の5センチに設定し、「konide-1」は富士山の高さ3,776メートルから約3.7センチに設定してます。実は縦幅を決めてからデザインするのは初めてで。点を2個打ってからフレームの他の部分をデザインするという、普通はやらないことをやったんです(笑)。

田代:難しくないですか?

熊谷:とても難しかったです。ただでさえ制限だらけの形に、さらに制限をかけているので。でもその制約があったからこそ、無理やり詰め込んだような違和感なく形に持っていけましたね。

 

田代:「konide-1」のレンズシェイプは特徴的ですね。

熊谷:これはね、正直「感覚」なんですよ。3.7センチという天地幅だと、ラウンドやウェリントンでは難しい。試行錯誤して、気持ちいいところに落ち着いたのがこの形です。

田代:「konide-2」はどうですか?

熊谷:作った順番としては、「konide-2」が最初に書き上がってました。急に壮大になるのですが、このテーマは「地球」なんですね。

田代:スケール“山”どころじゃないですね(笑)。

熊谷:地球から山がニョキっと出ているようなヨロイを作りたかったんです。地球って正円ではなく、赤道部分が膨らんでいるんです。宇宙に一番せり出しているのは赤道にある山なんです。そういった話から、地球から飛び出しているヨロイを作ろう、という発想に至りました。

田代:宇宙に近い山ってことですね。

熊谷:「konide-3」は、実はあんまりkearnyが作ってこなかった大きいウェリントンシェイプです。13年やってついに来たな、と。初期の「Wellington」モデル以来、ここまでの大きいサイズはなかったので、セルロイドでウェリントンシェイプ、いいなぁと。クリア系だとノー芯(テンプルに芯が入っていないこと)の美しさが本当に際立って綺麗です。


「セルロイド」という素材の今

田代:僕はやっぱり「セルロイドの魔力」ってあると思うんですよ。ぱっと見でセルロイドって美しいなって思うんです。

熊谷:そうなんです。この「とろみ」っていうのかな?このとろみってなんでこの素材しか出ないんだろうって。掛けてみると「コシ」がある。そこに魅了されちゃって、もう洗脳されてるみたいですね(笑)。

田代:本当にセルロイドっていいわって改めて思いましたね。

熊谷:やっぱり加工も難しいし、作りづらい理由もたくさんあります。僕自身、セルロイドを好きでkearnyを始めたのですが、コロナ禍があったり、工場さんでも色々あって、セルロイドフレームを作るために自分がどう頑張らなきゃいけないのか、という状況に変わってきてるんですね。

いわゆる「セルロイドを使うブランド=kearny」を続けるために、今までやってきた経験や知識をフルに生かして、チタンやアセテートなども取り入れながら「acekearny」としてものづくりをすることで、ブランドが維持できています。

セルロイドは当たり前に作ってこれた時期を知っているので、本当に感慨深く思います。それを謳い文句にして売りたくもないですし、安っぽく感じられたくもない。頑張って作ってる人たちにどう敬意を持ってお届けできるか、ということを考えながらやってます。



後編予告

山という壮大な自然から生まれた「konide」コレクション。そこには、デザイナー熊谷富士喜さんの知的好奇心と、眼鏡づくりに対する尽きることのない探求心が詰まっていました。

後編では、さらに深く掘り下げ、「konide」を生み出した背景にある「ものづくり」の今と、デザイナーとして「熊谷さんの今」について迫ります。「セルロイド」に魅せられ、そしてkearnyをどのようにして多くの方に知ってもらうのかについて。どうぞお楽しみに。

 

Text:Junichi Tashiro

Photo:Mai Nagao

 

【 kearny 2025ss new collection fair 】
期間 : 2025年8月8日(金)〜 8月17日(日)
熊谷氏在店日 : 8月9日(土)13:00 〜 18:00 予定
開催店舗 : blincvase
営業時間 : 12時 〜 20時
定休日 : 月曜日

 

【ABOUT BRAND】
kearny|カーニー
職人の手で磨かれるセルロイド製の眼鏡を筆頭に、洋服とバランスよくコーディネートできるアイウェア kearny。
デザイナーの熊谷富士喜(くまがい・ふじき)氏は、眼鏡にとどまらずコーヒーやアパレルなど幅広いカルチャーに関わり、東京・祐天寺で古着と雑貨、セレクトアイテムを提案するショップを経営しています。リピーターの多い、注目のドメスティックブランドです。

 

【blincvase | ブリンク ベース】
住所 東京都港区北青山3-5-16 1F
TEL 03-3401-2835
営業時間 12:00 〜20:00
定休日 月曜日(祝日の場合は火曜休業)
URL https://blinc.co.jp