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”スタイル”から織りなされるアイウェアデザイン 〈Grapes &Celadon デザイナー森山秀人氏 インタビュー〉

日本の眼鏡デザインを長年に渡り牽引しているデザイナー森山秀人氏により、新たに2020年に始動したGrapes & Celadonがブリンクベースでも取り扱いがスタート致しました。同ブランドは、ヨーロピアンヴィンテージを基本としながら、デザイナーの豊富な経験と知識、そして感性で新しいヴィンテージスタイルのプロダクトを確立しています。

今回は取り扱いスタートに際して、デザイナーの森山秀人さんにご自身のキャリアやGrapes & Celadonのデザインについてお話を伺ってみました。以下会話形式にてお届け致します。

 

田代:Grapes & Celadonのこともお聞きしたいのですが、まずは森山さんのデザイナーとしてのキャリアを振り返ってみたいと思います。森山さんはデザイナーになってから、何年になりますか?

 

森山:34年ですね。1989年に眼鏡の企画デザイン会社に入社しましたので。

 

田代:フレームデザインを30年以上デザインやってる方ってなかなかいらっしゃらないんじゃないんですか?

 

森山:多くはないですが、何人かはいらっしゃいますね。YUICHITOYAMAのユウちゃん(外山雄一さん)も僕が入社してから 4年後くらいに入社してきたので、多分30年くらいやってますね。

 

田代:名だたる面々ですね、、。眼鏡のデザインもさる事ながら、長く続けるということにもとても尊敬していますね。

 

田代:森山さんは元々眼鏡に興味があった上で、デザイナーになろうと思っていましたか?

 

森山:いや、もう全く。僕は服飾の専門学校いってたので、元々はアパレルのデザイナーになりたかったんですけど、卒業前に就職先が決まらないまま卒業して、今で言うとニート状態でしたね。まぁでもいいかと思って、ちょっとバイトとかをしながら過ごしていました。当時”流行通信”っていうファッション誌があったんですけど、それパラパラ見ていたら、ゴルチエ(ジャンポール・ゴルチエ)の眼鏡を作っている会社の広告をたまたま見つけて、僕は当時からゴルチエがとにかく好きだったので、ゴルチエに携われるなら、なんかちょっと良いかもと思って応募してみました。全然眼鏡のデザインをやりたいとかは当時なかったのですが、面接に受かって、入社することになって、そこから眼鏡のことを色々知ったという流れですね。

 

田代:そうなんですね。ゴルチエは当時すごい人気でしたよね?

 

森山:そうですね、ファッションジャーナリストのランキングみたいなのでもずっと1位の状態の時でしたから。

田代:自分が好きなブランドの眼鏡をデザインするってすごいことですよね。入ってすぐデザインを?

 

森山:いや、さすがに何年か経ってからでしたね。実際ゴルチエのデザインに携わったのは2年目ぐらいでしたかね。

 

田代:でも不思議な感覚になりませんか?なんかゴルチエの眼鏡やサングラスのデザインをするようになって、それがゴルチエの公式として出るわけじゃないですか。

 

森山:そうですね。それは嬉しかった記憶があります。 


田代:それが森山さんのキャリアの20代前半と。あと森山さんが入社したあとに、先ほどもお話ししてましたけど、YUICHITOYAMAの外山さんとあとMASAHIROMARUYAMAの丸山さんが同僚として入ってこられたんですよね。

 

森山:そうですね。新宿のアイランドタワーにオフィスを構えていた時は、他にもデザイナーが2人いましたが、僕とユウちゃんとマルちゃんの3人で仲良かったですね。

 

田代:当時はまだ誰も自分のブランドやってないじゃないですか。そこからスタートして、今はもう皆さん日本というか世界的なブランドになってるじゃないですか。

 

森山:彼らは世界で評価されているのですごいですよ、僕なんか全然です。でもなんの因果か、同じところ出身のデザイナーがブランドを立ち上げて、今こうやってブランドをやっているのは感慨深いですね。

 

田代:当時は今のような将来のことは想像もしてなかったですか?

 

森山:そうですね。まさか自分で眼鏡のブランドを作るとか、まだその頃は考えてなかったですね。

 

田代:そこからどのタイミングで、独立しましたか?

 

森山:最初に入社した眼鏡企画の会社を退職して、フリーデザイナーという形でお仕事を受けて、それを10年くらい続けて、2010年にBobby Sings Standard,を立ち上げましたね。

田代:最初の会社を退職して、またフリーデザイナーを10年やって、2010年っていうタイミングで、「じゃあ自分のブランドをやろう」と思ったきっかけとかはありますか?日常的にフリーデザイナーとして過ごしてて、もうそろそろ自分のブランド始めようっていうタイミングが難しそうなイメージがあります。

 

森山:そうですね、でもその時にはもう40歳過ぎてたんですよね。年齢的なこともありますし、あとフリーでやっていた10年間っていうのは一区切りで、「フリーでやってこれたなー」っていう自負はありました。請け負いの仕事だけだと、色々我慢しなきゃいけないこととか多々あるので、その時点でもう20年くらい眼鏡デザインの仕事やってたんで、「じゃあちょっと1回自分の好きなことをやってみようかな」と思ったのがきっかけでした。

 

田代;そこからまた10年経って2020年っていうタイミングでGrapes & Celadonとしてブランドを一新し、始めようと思うのは、それはまたきっかけというか、何か理由がありますか?

 

森山:元々Bobby Sings Standard,をやっていた2010年代後半あたりはずっと チタンのフレームを中心に作ってたんですよ。そろそろまたセルフレームをやりたいなって思っていて。最初はだからBobby Sings Standard,でセルフレームを別ラインとか立ち上げようかなとかって思ったんですけど、でもどうせなら新しいブランドとしてやった方が、心機一転で良いかなって2018年くらいから思っていました。

 

田代:Grapes & Celadonはどのような構想でしたか?

 

森山:新しいブランドをやろうと考えた時に、まず自分の根底にはずっと「ヨーロピアンヴィンテージが好き」ということがあって、新しいブランドはとことんヨーロピアンヴィンテージでいこうっていう風に考えました。

 

田代:そうなんですね。なんかこう、多分僕が見るGrapes & Celadonと、Bobby Sings Standard,を知っている長尾が見るGrapes & Celadonって、またちょっと違って見えるのかとも思うのですが、どうなんですかね。やっぱ森山さんだな、みたいな感じはあるんですか?

 

長尾:もちろんあります。でもBobby Sings Standard,はもっと濃厚というか、正直私はかけたくても、日常で自分のスタイルと合わせるの難しかったりはあったんですけど、Grapes & Celadonは森山さんの世界観がありつつ、 森山さんのデザインの旨味を凝縮したイメージなので、ちゃんと繋がっている感じがしますね。

 

森山:Bobby Sings Standard,も、でも、根底はやっぱり僕の好きな、ヨーロピアンデザインっていうのはあるんですけど、 当時はBobby Sings Standard,やっていた頃は、それこそアイサイズ61とか、「オーバーサイズも大概にしろ」っていうぐらいでしたよね笑

 

長尾:確かに目立ってましたけど、とてもかっこよかったです。

 

森山:その頃に比べると、まともなサイズになったかと思います笑。身につける人を限定しないというか、多くの方に手に取ってもらえるぐらいのサイズ感とかそういう意識はあって、Bobby Sings Standard,と比べると、裾野が広がって、色んな人が手に取ってくれやすくなってるかなと思います。

 

田代:キャリアを重ねたことによる自分の中の変化みたいなことはありますか?

 

森山:そうですね、年月を重ねてというのは意識はしてなかったですけど、改めて振り返ってみると間違いなくあると思いますね。

 

田代:表現が合っているかわからないですが、シンプルなデザインだけど、じゃあそれを経験や知識などのキャリアを積めていないデザイナーが同じように描けるかと言われると、これは絶対に描けないですよね。

 

森山:それはそうですね。

 

田代:日本の眼鏡のデザインって、日本が優れた製造技術を持っているからこそ、パーツとかディテールで勝負したりとか、そういうことが多いですよね。それはそれで僕は好きなんですけど、ここまでシンプルな潔いセルフレームのデザインで色気も品もある雰囲気を出せることに驚きました。

 

森山:田代さん、分かってますね〜笑。

 

田代:言い方が良くないですけど、シンプルなデザインって一歩間違えると退屈に感じるデザインになりかねないじゃないですか?ただ森山さんのデザインからは一切それを感じさせない、何か奥深さみたいなものをじんわり感じるんですよね。ヨーロッパのデザインって、やっぱりかっこいいし、憧れがあるんですけど、 顔に合わないとかも合ったりします。逆に日本のブランドって掛け心地は良いのですが、ヨーロピアンデザインがベースになっていても、気持ちがなんか満たされないのがあったり、両方の良さが自然に詰まってる感じですよね。

 

森山:なんか僕の最近のマインドで、ここ数年特にGrapes & Celadonを始めるっていうあたりから、眼鏡のデザインをしてるっていう気がしないんですよね。僕は、眼鏡のデザインはモノとしての括りとしては”プロダクトデザイン”の範疇だと思ってまして、大多数のデザイナーさんは眼鏡をプロダクトとして追求してデザインをしていくので、例えば蝶番のところのパーツにこだわってみたりとか、そうやってプロダクトデザインを作り上げていくっていうのが一般的な眼鏡のデザインのやり方だと思います。それで僕もBobby Sings Standard,の時に、チタンフレームのデザインで、スタイルよりもディテールにフォーカスしてやってた時期があったんですけど、やっぱり僕が好きなヨーロピアンヴィンテージの世界と違うという違和感があって。

森山:僕はプロダクトとしての眼鏡がスタートじゃなくて、スタイルの中の眼鏡がスタートだったので、まずスタイルをしっかり決めて、それでそのスタイルに最終的にこういう眼鏡をかけたらよりはまるかなっていう、所謂”スタイルに合うフレームデザイン”を長くやってきたんです。 最後の仕上げとして、そのスタイルにバシッとはめるっていう、 全てのデザインにおいてスタイルありきなのが、特にGrapes & Celadonのデザインには込められています。だから田代さんの感想とか聞いて、僕の考えをしっかり捉えてもらえていて嬉しかったです。

 

田代:確かにそうですね。視点というか、眼鏡を見ている距離感がディテールを重視してるデザイナーとは異なるのかなと思いました。俯瞰しているというか。

 

森山:もちろんアイウェアデザインとしては、きっちりプロダクトとしての完成度とかをディテールから極めることが絶対大正解だとは思っています。そうしないとアイウェアデザインの未来がなくなってしまうので、それは絶対そうなんですけど、そういうブランドとかデザイナーさんは日本にはいっぱいいるし、別に僕みたいな眼鏡をアイウェアとして俯瞰して見ているブランドがあっても良いかなと思っています。

 

田代:Grapes & Celadonのデザインを見た時の良い意味での違和感が理解できて、すごく腑に落ちました。

 

森山:眼鏡は味付けのアイテムというのが、昔からずっとあるので、最初からガチガチに「よし、今回はこういうコンセプトで、このプロダクトで」っていうやり方ではないので、一つ一つにコンセプトとかを求められると、正直後付けになったりもしますし笑。

 

田代:今日お話してみて確信したのですが、これはあくまで僕の個人的な感想でなのですが、森山さんってヨーロッパのデザイナーみたいだなと感じました。日本人特有の生真面目でギュッとスポットを当てるマニアックな感じではなくて、何か森山さんの性格とキャリアから滲み出る、抜け感のある優雅で柔らかい空気感みたいなのが、日本のフレームデザインで出せていることが、この新鮮さを感じさせてくれているのだと思いました。

 

森山:でも結局ディテール重視やプロダクトとしてのフレームデザインが自分にはできなかったので、やっぱりユウちゃんにしても、マルちゃんにしても、しっかりコンセプトで立てて、スタイルだけじゃないレベルに持っていっているので、だから僕はそういうのができなかったことの裏返しというか、元々そういう素質がないデザイナーだったので、違うアプローチをしなければいけないと考えていたので、オリジナリティーっていうのを30年以上かけて見出しすことができたのかなっていう風に思います。

 

田代:30年以上かけて見出したオリジナリティー、若輩者の私なんかは到底辿り着けない境地です、、。

 

森山:いえいえとんでもないです。あの、なんか恐縮なので「業界の重鎮」的なのだけは書かないでくださいね笑。

 

田代:そう思っていますが、ご希望であればやめておきますね笑。

 




Text:Junichi Tashiro

Photo:Mai Nagao