思わず掛けたくなる親密感、kearnyの眼鏡づくりとは? 前編
職人の手で磨かれるセルロイド製の眼鏡を筆頭に、洋服とバランスよくコーディネートできるアイウェアとして、ブリンク ベースで早くもリピーターの多いブランドとなった kearny|カーニー。デザイナーの熊谷富士喜(くまがい・ふじき)さんは、眼鏡と服と音楽を愛し、祐天寺でも古着と雑貨、セレクトアイテムを身近な観点から提案するショップとして、feets(フィート/メンズ)のsteef(スティーフ/レディース)の2つのショップを経営しています。ブリンク ベース店主の荒岡俊行が、さまざまなものとリンクして生まれる眼鏡の成り立ちにせまりました。
荒岡:熊谷さんは、幼い頃から眼鏡が好きだったとか。
熊谷:眼鏡は中学生の頃から気になっていたんですよね。兄が視力が弱くて早くから眼鏡を掛けていて、いつも憧れていました。僕自身は、視力がいいんですよ。だから中学では伊達眼鏡を掛けていました。
荒岡:え、中学で伊達眼鏡? それは、相当おしゃれな中学生ですね。お兄さん以外の影響もありそうです。
熊谷:兄の後に憧れたのは、アメリカのジャズ・ピアニストのビル・エヴァンスですね。僕は音楽がすごく好きで、中でもビル・エヴァンスが本当にかっこいいと思っていて。眼鏡をかけた彼のルックスも大好きだったので憧れました。うちは、体育会系の家系で父が野球の監督をしていたんですね。だから野球をやらなくてはいけなくて。音楽をやりたいといってもやらせてもらえなかったんです。できないことへの憧れってとにかく募るじゃないですか。それで眼鏡や音楽への興味がより高まっていきましたね。
荒岡:そんなに好きなら、就職でメガネ業界は考えなかったんですか?
熊谷:視力がいいこともあって、眼鏡店に入る時はいつも緊張していました。ある時、大手の眼鏡店で接客をしてもらったんですけど、ファッションというより、顔に合うものを強力にすすめられてしまって。僕は、ファッションのひとつとして眼鏡をかっこいいと思っていたので、眼鏡の専門店ではなく、洋服のセレクトショップに就職することにしました。
荒岡:就職してからも眼鏡は集めていたんですか?
熊谷:眼鏡は、独学で勉強していました。古い眼鏡を探すことに熱中しましたね。洋服も古着が好きで。その後、会社を辞めるんですが、古着好きが高じて、古着屋さんで働くようになり、海外で買い付けを経験して、ヴィンテージメガネの仕入れもさせてもらって。その後独立して、今にいたります。
荒岡:いまは、古着店とこちらのセレクトショップの二店舗を経営しながら、眼鏡ブランドkearny|カーニーを立ち上げています。眼鏡を作ることに興味をもったきっかけは?
熊谷:ヴィンテージの眼鏡は若い頃からよく見ていたので、海外の買い付けでは、メガネを専門に扱うディーラーさんにまでコンタクトを取るようになっていました。いまから10年くらい前ですね。でもちょうどその頃から、ヴィンテージ眼鏡は市場に流通する数が減ってきて。Ebayなど消費者同士のウェブ取引も増え始め、それだけでやっていくのは難しいのではないか心配してくれたディーラーさんに、「そんなに眼鏡が好きなら、自分で作ってみたら?」と背中を押されたのが大きいですね。日本の眼鏡にどんなものがあるかも当時は知らなかったくらい、海外のヴィンテージ眼鏡のブランドや国の歴史、年代を紐解いていく作業が面白くてのめり込んでいました。その知識をいかして、いちからデザインできるのも面白いなと。それで、作るほうの勉強を始めました。
荒岡:ヴィンテージ眼鏡にあるようなデザインや材質の面白さをいまの眼鏡にというのが、ロマンチストだなと思うんですよね。kearny|カーニーで使っているセルロイドは、いつかなくなるかもしれない素材と言われていますが、それを積極的に使っていることにもロマンを感じます。「俺がやらなきゃ誰がやる」みたいなね。
熊谷:「勝手に責任感をもっちゃった」みたいな。でも一番好きな眼鏡がセルロイドだったので。ブランドを始めるなら、そのきっかけになった素材でやりたいというのがありました。なくなる前にやりたいと思ったのも確かですね。セルロイドは、硬くて加工が難しく、職人の手仕事になる。加工しやすい先端素材は、ほかにたくさんありますが、僕は、ひとりでコツコツやっていきたかったので、職人さんと密にコミュニケーションをとりながら作るのもいいなと。
荒岡:セルロイドは、職人泣かせの生地ではありますよね。衝撃に強くコシがあるから、歪みにくく眼鏡にはいい素材ですが、ムラが出たり、最後の仕上げの削りで含有物が顔を出したり。
熊谷:そう、職人さんもそういうときは心が折れるって言ってましたよ。だけど、最後まで順調に磨けた時は本当に綺麗なんですよね。今手に入る色数は50(?)くらいと少ないですが、色味とツヤが素晴らしいと思います。
荒岡:次回は、セルロイドへのこだわりをもう少し聞かせてください。
Text & Edit Saiko Ena
思わず掛けたくなる親密感、kearnyの眼鏡づくりとは? 後編
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