コンテンツへスキップ

kearnyデザイナー熊谷富士喜氏インタビュー -11年目の初心と変化- 後編

2024年2月2日(金)よりkearny/acekearnyの新作コレクションを中心にアーカイブ作品も揃えたフェアを開催いたします。全6型からなる新作は一新したオリジナルパーツによって構成されており、kearnyらしさもありつつ、10周年を超えて更に深みのあるモデルがラインナップされております。今回はフェアに際して、デザイナーの熊谷富士喜さんにkearnyの2024SSの新作やルックについてお話を伺ってみました。以下後編ををお届け致します。

 

田代:では続いて、acekearnyの新作からsaintとmartinについて、お話しを聞いても良いですか?

熊谷:はい、saintとmartinは本当は同じシーズンではなく、今回のシーズンに間に合えば嬉しいなっていう形で動いてたシリーズだったんで、先ほどお話しした4型とは少し変えたテーマなのですが、間に合ったので同じタイミングでの発売になりました。それでsaintとmartinのテーマについてなのですが、 2015年に初めてパリで展示会をやったんですけど、そこからコロナとかもあったりして、去年の6月に、久々にまたパリで展示してきたんですよ。その時に泊まったホテルの近くに、すごく心地の良い場所があって、サンマルタン運河という場所で、そこを見つけてからは毎日朝食を食べていました。2、3日してから、なんかここにいる人が、他のエリアと雰囲気が結構違うなって途中で気づいて。

 

熊谷:富裕層からホームレスなど、色んな人たちが同じ場所で暮らしているのが、すごく違和感があって。本当は海外だと貧富のさで住むエリアが顕著に分かれていることが多いのですが、サンマルタン運河周辺ではお金持ちの人の犬と家がないような人の犬が一緒に遊んでて、日本であまり見ないような光景に驚いたので調べたら、「ブルジョア ボヘミアン」という人たちがいて、 エッフェル塔の裏とかの高級なエリアに住んでた人たちが、もうちょっと普通の暮らしをするために移り住んだ場所ということが、後から分かって「あ、そういうことか。」と。それなら自分が不思議に思った光景にも納得できるなと。

熊谷:日本ってお金なくても例えばヴィトンのバッグ持ってたりとか、給料以上のものを頑張って買うこともあったりすると思うんですけど、 それって実は世界的に珍しいことで、フランスとかだとそういうのって少ないみたいなんです。前回のフランスで一番記憶に残っていて。自分がかけたいとか、かけてる人とかの記憶をぼんやり浮かべながら作ったのが、サンマルタン(saint martin)からとってセイントとマルタンっていう名前で作ったのがこの2型です。


熊谷:最初にお話した変化を持たせることだったり、新しいことに取り組みたい気持ちもあったので、今まで日本のアセテートをメインで使ってたところを、今回は今まで一回も使ったことなかったイタリアのマツケリ社のアセテートを初めて使いました。最初は日本のアセテートで生地選びしてたのですが、フランステーマにして日本の生地を使うと、良いミックス感が自分の中でこのデザインだと出なかったので、なんか日本のブランドがヨーロッパの真似してる感があって、生地ごと ヨーロッパの生地でやった方が、現地の香りを少しでも出せるのかなってのもあって。マツケリを使用したことで色が今までのカーニーとは全然変わりましたね。

田代:マツケリの色じゃないとこの空気感は出せないですよね。

熊谷:マツケリのアセテートは今回採用したような中間色とかがダントツに綺麗だと思うし、やはり日本の感覚では出てこない色が特徴ですよね。多分、眼鏡お好きな方だったら一発でわかると思うし、あと今回はレンズも全部2カーブにしてるっていうのもあって、元々のカーニーの4カーブとか膨らみとは違うから、そこもkearnyとしては新しく少し切り替わったところですね。

田代:本当に綺麗ですよね。なんかこの中間色みたいなところの美しさっていうのはマツケリ特有ですし、本当にたかが生地、されど生地であって、生地や色が違うだけでこれだけ違う表現ができるというのは、生地の色とかもフレームデザインの一つだと感じますね。

熊谷:ヨロイとテンプルは 自分の中でもすごい納得できてたから、この2型にも使いたくて、フロントが多少ヨーロッパの香りがしても、ヨロイやテンプルが全くヨーロッパじゃないのって、 日本人が得意とするフィルターを通しながらできるところなのかなと思ってる部分でもあります。

田代:正に今それが言いたかったです。笑

熊谷:先に言っちゃった。笑

田代:しっかりヨーロピアンなフロントデザインなんだけど、一方でヨロイやテンプルを見たらどう見ても日本らしい美しいメタルが施されていて、ギャップはありながら、そこに熊谷さんのフィルターを通したことでチグハグな違和感が生じないので、フレームとしてまとまりがあるんですよね。

熊谷:これだけ世界中の物が日本に入ってきてるって少し異常な事だし、それを普通にこなせてる日本のカルチャーってすごい独特だから、 その日本人の特性みたいなものが良い方向に出たなっていうのがこの2つだなと思ってます。

熊谷:なんかリプロダクトする方も多いし、それはそれで否定するわけじゃないけど、やっぱ自分がそこに思いっきりリプロダクトだと、なんかあんまりテンションが上がらないから。 どのくらいフィルターを通すのかはすごく意識は毎回してます。

田代:毎回感じますが、今回は特に熊谷さんのフィルターの通し方が新作モデルの隠し味というか、味の決め手になっていると思います。

 

〈2024SS  ルック・ヴィジュアルの話〉

田代:今回のルックのお話も聞いても良いですか。

熊谷:はい、ぜひぜひ。

田代:今回のルックも凄く素敵ですよね。大東さんもそうですし、スタイリングも、写真も、それに合わさる眼鏡も全部。「あ、これはプロの仕事だ。」とビリビリと感じましたね。

熊谷:ありがとうございます。今回もいつものチームで試行錯誤して作りました。kearnyは元々ルックの撮影をする時に、代理店を通さず、アートディレクターも入れないで撮影してるんです。スタイリストはずっと変わらず服部君(服部昌孝さん)がやってくれてて、カメラマンさんはファーストシーズンだけ違う方にお願いしたけど、2シーズンからは赤木君(赤木雄一さん)がカメラマンになってからずっと変わってないんです。ずっと同じチームでやってきていて、チームで全部考えるというのがkearnyの良さや強みだと思います。

田代:チームでやることによって、その時々の熊谷さんのイメージを濃厚に注ぐ事ができるから、kearnyのルックやヴィジュアルはテンプレート感がないオリジナリティをいつも感じるのはそういうことだったんですね。今回のルックの撮影に至るまでの経緯などもお伺いしたいです。


熊谷:今までは自分が海外に行って、色んな人に声をかけて撮るポートレートを撮ったり、実際「kearny」というブランド名もサンフランシスコのストリートの名前から取ったりとか、自分が眼鏡を好きになったきっかけも海外のヴィンテージから好きになったし、そもそも最初の方はサンフランシスコでデザインしたものを日本で作るという流れでやってたから、ヴィジュアルに日本感を出すというのが、しっくりこない期間が長くて。 

熊谷:ただkearnyを続けて10年経った時に、今回は「変化」をテーマにしたし、撮り方だったりとかテーマも全て変化させたいっていうのもあって。
チームで考えた時に、今回ルックのモデルをやっていただいた大東さん(大東駿介さん)の名前が上がって、「大東さんにkearnyをかけてほしい。」ってシンプルに自分も思ったんですよね。映画もドラマも本当にお忙しい方なので正直断られるかと思ったのですが、マネージャーさんに連絡したら、是非やりたいですと言ってくださって。最高のルックを作るために、入念にチームで練り合わせて、以前佐渡島テーマに作った時の経験を大切にしながら、今回は日本のテーマでどのようにやるかみたいな考えて撮影に取り組みましたね。

田代:そういうことなんですね。確かに考えてみると、こんなに日本っていうようなイメージにフィーチャーして出したルックって、本当にここ数年の話ですよね。

熊谷:そうですね。コロナの関係で海外にも行けなかったし、海外から来たモデルさんたちも本国に帰国してたし、そのくらいの時期から少し自分の考え方も変わりましたね。パリで展示会やる時も、日本のブランドとして出るので、そこで色んな国の方をモデルとしてお見せするのも良いのですが、自分の中では、”日本を持ってきたい”という気持ちが強くなって、そうするとやはり日本のモデルさんで勝負したいなという答えになりましたね。

田代:大東さんをモデルにしたことで、インパクトもありましたし、「今までのkearnyから変化させる!」という決断や潔さみたいなエネルギーを感じましたね。

田代:kearnyのようにシーズンルックをチームでやっているところもないですよね。

熊谷:ないからこそ、自分がやってるっていうのもありますね。

田代:そこを楽しみたいみたいな気持ちもありますか?

熊谷:そうですね。誰でもやれることをやりたいわけじゃないし、自分だから挑戦できることを眼鏡で挑戦する気持ちは常に持ってます。

熊谷:面白いブランドってもっと増えるべきだと思うし、なんか眼鏡って面白い業種なのかも!?って興味を持ってもらって、働きたいという人が少しでも増えたら嬉しいなぁという願いもあります。

田代:kearnyは眼鏡だけじゃなくて、眼鏡を通して様々な物や考え、土地や人を伝えたり、イメージさせてくれるところが魅力ですよね。

熊谷:11年目からも沢山の方々に色んな形で面白いと思ってもらえるように頑張っていきます。

 

【 kearny 2024ss new collection fair 】
期間 : 2024年2月2日(金) 〜 2月18日(日)
熊谷氏在店日 : 2月17日(土) 13:00 〜 18:00 を予定しております。
開催店舗 : blinc vase
営業時間 : 12時 〜 20時
定休日 : 月曜日


【ABOUT BRAND】
kearny|カーニー
職人の手で磨かれるセルロイド製の眼鏡を筆頭に、洋服とバランスよくコーディネートできるアイウェア kearny|カーニー。
デザイナーの熊谷富士喜(くまがい・ふじき)氏は、眼鏡だけでなく幅広いカルチャーに精通し、東京・祐天寺で古着と雑貨、セレクトアイテムを身近な観点から提案するショップを経営しています。リピーターの多い、ドメスティックブランドです。


blinc vase | ブリンク ベース
住所 東京都港区北青山3-5-16 1F
TEL 03-3401-2835
営業時間 12:00 〜20:00
定休日 月曜日 祝日の場合は振替で火曜休業
URL https://blinc.co.jp