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【kearny】 2025ss new collection fair 「konide」デザイナー熊谷富士喜氏 インタビュー|後編

只今ブリンク ベースでは、発売されたばかりのkearny | カーニー 2025ssの新作コレクションを一挙にご覧いただけるフェアを、8月17日(日)まで期間限定で開催しております。

前編では、山という壮大な自然から生まれた「konide」コレクション。そこには、デザイナー熊谷富士喜さんの知的好奇心と、眼鏡づくりに対する尽きることのない探求心が詰まっていました。

 

 

後編となる今回は、さらに深く掘り下げ、「konide」を生み出した背景にある「ものづくり」の現状に向き合う姿勢と、デザイナーとして、そしてひとりの人間としての「熊谷富士喜の今」について迫ります。

「セルロイド」に魅せられ、それを守り続ける意思。そして、新しくスタートしたコーヒーショップや直営店に込められた想い。眼鏡づくりから広がる、熊谷さんの世界をどうぞお楽しみに。

前編はこちらからご覧いただけます。

 

ものづくりを届け、「変わらない進化」をし続けるkearnyの挑戦

熊谷:ものづくりとは、多くの想像力や思考を巡らせるものですが、現代は物が溢れているため、簡単に作られていると誤解されがちです。でも、100円や300円で売られているカプセルトイも、本当はすごく作るのが大変なわけじゃないですか。

田代:そうですよね。この話題は、熊谷さんと話すと毎回出ますが、同じ話でも絶対に伝えたいですよね。

 

 

熊谷:そうなんです。絶対に言い続けるべきというか。ただ、クラフトマンシップを売りにしすぎるのも正直好きじゃないんです。でも、メガネは約200工程かかると言われますが、どれだけの人が関わっているのかを全く知らないよりは、多少想像力を働かせて使ってもらったほうが、長く大切にできるんじゃないかと思います。

田代:確かに。

熊谷:猛暑の中、運送会社さんたちも運んでくれていますし、セルロイドなんて保管庫に電気を通しちゃいけないから、夏は暑く、冬は寒い中で作業しているんですよ。僕が生地を探しに行くのも、キンキンに冷えたか、もわっとした暑さの中で汗だくで…そういう状況ですね。

田代:ドキュメンタリーとか撮りたいですね。「メガネができるまで」みたいな。

熊谷:お金があれば絶対にやりたいです。ただ、今は作るのに1年以上かかるんです。その1年の全工程を追いかけなきゃいけないですから。

田代:そうですよね。生地を作って、そこからさらに3〜4ヶ月も「寝かせる」んですもんね。

 

田代:製造現場の職人さんたちは、わざわざ外に向けて発信しようというタイプの方が少ないので、外の人間が光を当てないと、エンドユーザーにはなかなか届かない。

熊谷:でも、技術をお披露目しすぎるのも難しい。その価値観やバランスを取るのは本当に難しいんです。

田代:時間とお金、確かに。

熊谷:「え、こんなにやってこの値段なんですね」というのもあります。もちろん、大変なことを押し付けているわけではなく、職人さんにも生活があるし、僕だったらできないと思うこともやってくれている。一日中磨くなんて大変ですよ。

田代:僕はできないですね。本当にすごい。

熊谷:単純作業ではあるけれど、手の感覚だけで磨いて同じように見せる。クレイジーです。

田代:それが世界的に日本のメガネが評価される理由のひとつですよね。人の手が加わって、あのクオリティで同じものができるのは本当にすごい。

 

 

田代:もっとセルロイドで作りたいという思いがあるんですよね?

熊谷:とてもありますね。やっぱりいい素材ですし、自分にもっと力があればなと思う部分もあります。本音を言えば「konide」ももっと作りたかったんですが、セルロイドでやるには生地の厚みや色など色々な制限があって、今回はこの3型が限界かなと。今回はkonide 1・2・3ですが、次回はセルロイドじゃないkonide 4・5・6…という感じです。セルロイドでのkonideはこの3型だけというのは事実です。

田代:それは尊いですね。

熊谷:状況は昔とまるで違いますからね。セルロイドの供給状況も変わってきていますし。13年やってますが、最初のkearnyと全然違うと長く見てくださっている方はわかると思います。人間は変わってなくても、時代や素材の状況は変わりまくってる。だから、変わらないように見せることがすごく難しいんです。

例えば、料理と同じだと思うんですけど、去年食べた食事と同じ味を出したいと思っても、同じ米が手に入らなくなったら炊き方を変えたり、工夫をしますよね。プロダクトも同じで、並べた時に全然違うものになっていたらそれは再生産じゃないですから。同じように見せるために、型から作り直したり、職人さんの癖に合わせて調整してもらったりと、細かく指示を出す必要がある。そういう気遣いも必要です。

もちろん、「kearny変わっちゃいましたね」とネガティブに思う人もいれば、「値段上がっちゃいましたね」と言う人もいます。でも、それは誰かが儲けているわけじゃない。新作を作るにあたっても、どうkearnyらしさを出すか、いかに大幅に変わらないようにしつつ、進化させていくか。セルロイドという素材を使いながらそれをやるのは、考えすぎかもしれないけど、すごく難しいんです。

田代:僕は変化が好きなほうなので、同じモデルでも10年前と今とで仕様や風合いが少し違うのは面白いなと思います。

熊谷:milton2やsusan2、wilbur2なんかもそうですね。自分が若い時に作った辛さや尖りを削りすぎないように、どうブラッシュアップするかはかなり考えました。

田代:あの1の空気感を全く失わずにブラッシュアップされていて、むしろワクワクしました。

 

 

熊谷:お久しぶり感もありながら、ちょっと成長している感じですね。13年やってきたからこそ味わえる感覚で、特別ですね。続けてきたからこそ感じられるものです。

田代:だからこそ、ポジティブに捉える人もネガティブに捉える人もいるでしょうけど、そこに向き合っていく姿勢こそが、熊谷さんが臨むことですよね。

熊谷:だから10年前に考えたものが好評なのは嬉しい反面、少し悲しい部分もあります。当時は、ピュアに「こういうkearnyを作りたい」という想いでやっていたので。でも、あまり深く考えずにやっていた時代でもあったんです。

田代:でも、なんか音楽、というかバンドとかに近いなと思うんですけど。

熊谷:めちゃくちゃ似てると思います。

田代:デビューしたてに書いた曲は、それはそれでいいじゃないですか。でも、ちょっと若気の恥ずかしさがあるというか。大人になってから、10年経って同じ曲を演奏した時には、また違う良さがある。そういう感覚ですよね。

熊谷:本当に似てますね。僕はミュージシャンではないですが、音楽が好きなリスナーとして、あのワクワク感はわかります。milton2やwilbur2の復活も同じ感覚です。13年やってきたからこそ味わえる感覚で、特別ですね。本当に、体験として続けてなきゃそれもないですからね。



眼鏡づくりを超えて、広がるkearnyの世界

田代:前回イベントをやらせていただいた際のインタビューでは過去や未来について伺いましたけど、今回は熊谷さんご自身の“今”について聞いてみたいです。私生活でもいいですし、大切にしていること、考え方や価値観など、今のタイミングで感じていることはありますか?

熊谷:そうですね…感覚でしかないんですけど、始めた頃より、こういう価格帯のメガネを「買おう」と思ってくださる方は増えた気がします。でも今は、物価や円安の影響で、日本製でちゃんと作ろうと思うと当時の価格にはできない。インポートも含め、良いメガネが何かを考え、まだ買ったことのない方にどう届けるか…そういうことを今は考えていて、それがsost自由が丘店(kearnyの直営店)を作った理由にもつながっています。

 

お店にメガネを見に来たり買いに来るのは当たり前のことなので、そこは当たり前に頑張る。でも、それ以外のきっかけでメガネ屋に来てもらわないと、今後は正直厳しいと思っていて。メガネ屋は入りづらいという声も多いので、僕なりに入りやすくする工夫として、ギャラリー機能を持たせました。什器は可動式で、壁にはピクチャーレールを付けて写真展などもできるようにしています。

 

熊谷:先月は先輩に写真展をやってもらったんですが、kearnyを知らない方もたくさん来てくれました。僕は古着屋からスタートしてメガネに興味を持った経歴なので、メガネ以外のことから入ってきてもらえる場所が欲しかったんです。

 

田代:それは最近始められたコーヒー屋さんとも通じますよね。

熊谷:そうですね。コーヒー屋も結局「コーヒーを飲みに行く」だけじゃなく、もうひとつ理由があった方が来やすいと思うんです。祐天寺のfeets(熊谷さんが経営されるセレクトショップ)では、洋服を見に来た方にコーヒーを飲んでもらったり、逆にコーヒーからkearnyメガネにたどり着いてもらうこともあります。

カーニーブレンドという名前のコーヒーを作っていて、それをきっかけに「カーニーって何?」と興味を持ってメガネに辿り着いてもらえるのはすごく嬉しいですね。少し前はビールも作りましたし、そこから知ってもらえるのも嬉しいです。

 

熊谷:今はメガネだけでなく、他のものからも知ってもらう必要がある時代だと思います。コーヒー、アパレル、ギャラリー…それらを含めてブランドを広げる。僕はメーカーでもあるので、Tシャツを作ったりもします。あまり「メガネ、メガネ」と固めすぎたくないんです。山を見たり音楽を聴いたり、そういうことからメガネを作りたくなるのが本音であり事実。ほかのことに興味がなければ、今の自分のメガネ作りはないです。

田代:ブリンクベースも色んなブランドを扱っていますが、kearnyは確実にアプローチが違うと感じています。プロダクトとしての素晴らしさももちろんありますが、それだけじゃない。ブランドのあり方そのものが違うと思いますし、お客様にもそれが伝わりやすい。コーヒーやギャラリーも含めて全部がkearnyなんですよね。

 

 

熊谷:正直、もっと伝わりづらいことをやってるなとも思うんです。だから、田代さんやブリンクベースの皆さんみたいに、僕たち人間に向き合って、お客様に伝えてくださる存在は本当に大事です。

熊谷:僕は単純にメガネのことを面白いと思っちゃうんですよ。気持ち悪いかもしれないですけど、メガネって面白い。

田代:そのメガネへの愛やリスペクトが伝わってくるから、熊谷さんのメガネへの想いは表面的じゃないんだなって思えるんです。

熊谷:そうです。面白いですね、飽きないです。

田代:言い方が悪いかもしれませんが、もしそんなこと言わずにただいろんなことに手を出してるだけだったら、ちょっとメガネに対して想いが弱いのかな? と思っちゃう人もいると思うんです。でも、こうやってお話しすると、熊谷さんが本当にメガネが好きだということが伝わってきます。だから、そういうのをちゃんとお客さんにも伝えますし、お客様も「この人本当にメガネが好きなんだな」って感じてくれる。

そうすると、いろんなことをやっている人だけど、やっぱり基盤にはメガネがあるんだなっていうのが伝わると思うんです。そこは今回のフェアでもしっかり伝えていきたいですね。

熊谷:はい、よろしくお願いします。

 

田代:うちのお客様は、kearnyだけでなく、そもそもメガネのブランドをあまり知らない方が多いんです。だから、うちに来て初めてkearnyを知るという方も非常に多いんですよ。

熊谷:それは嬉しいですね。ありがたいことです。そこで知ってもらえたからには、僕たちもその魅力をきちんと伝えられるように頑張っていきたいです。お店が存在する意味は、そういうところにあると思うので。

田代:我々ができることは、まさにその想いを伝えることですね。

 

熊谷:今は情報が多すぎる時代です。だからこそ、今後は対面での接客、つまり「人間力」が重要になってくると思うんです。「この人から買いたい」と思ってもらえる時代になっていくでしょうね。

田代:そうですね。今の情報量は、人間が処理しきれないほど溢れかえっていますから。

熊谷:SNSを見なければいい、という意見もあるかもしれませんが、仕事上見ないわけにはいきませんし、もはや日常の一部です。お店に来られない方のためにも、情報を届けられる体制は必要です。ただ、お店に来られる方には、メガネ屋という業種が持つ対面での価値を存分に感じてほしい。僕はそこも含めて、この仕事が好きですね。

 

Text:Junichi Tashiro

Photo:Mai Nagao

 

【 kearny 2025ss new collection fair 】
期間 : 2025年8月8日(金)〜 8月17日(日)
開催店舗 : blincvase
営業時間 : 12時 〜 20時
定休日 : 月曜日

 

【ABOUT BRAND】
kearny|カーニー
職人の手で磨かれるセルロイド製の眼鏡を筆頭に、洋服とバランスよくコーディネートできるアイウェア kearny。
デザイナーの熊谷富士喜(くまがい・ふじき)氏は、眼鏡にとどまらずコーヒーやアパレルなど幅広いカルチャーに関わり、東京・祐天寺で古着と雑貨、セレクトアイテムを提案するショップを経営しています。リピーターの多い、注目のドメスティックブランドです。

 

【blincvase | ブリンク ベース】
住所 東京都港区北青山3-5-16 1F
TEL 03-3401-2835
営業時間 12:00 〜20:00
定休日 月曜日(祝日の場合は火曜休業)
URL https://blinc.co.jp