『カトラーってどこがいいんすかね?』―CUTLER AND GROSSの魅力について考える(前編)
CUTLER AND GROSS|カトラー アンド グロスといえば、イギリスの老舗眼鏡ブランドとしてスタッフの中にもファンが多く、「カトラーってかっこいいよね!」は合言葉のようになっています。でも、具体的に「どこがかっこいいのか?」というと、フレーム1本1本の魅力はお伝えできるのですが、ブランド全体の魅力をひとことで形容するのは難しいのです。
MDの高桑も、デザインの良さは分かるのですが、最近までみんなの言う「カトラーってかっこいい」という表現が、ざっくりとしすぎて正直ピンとこないところがありました。
そこで、店主の荒岡俊行、テクニカルマネージャーの加藤、MDの高桑で、カトラーアンド グロスの魅力について、改めて考えてみました。『3人寄れば文殊の知恵』で答えが導き出せるでしょうか…?(今回結論に辿りつくまでには、少々時間がかかりました。通常のブログより長くなりますが、カトラー アンド グロスにご興味のある皆さま、ぜひ最後までお付き合いくださいませ。)
カトラーのかっこよさ=デザインではない?
加藤:ブリンクで1番のカトラー好きといえば、やっぱり俊行さんですよね。俊行さん、率直にカトラーってどうしてかっこいいんだと思われますか?
荒岡:カトラーがかっこいいのって、デザインだけじゃないと思うんですよね。たまにちょっと違うのもあるもんね(笑)。とりあえず今までのカトラーの歴史を振り返ってみようと思って、僕が持っているカトラーのメガネを何本か持ってきました。
荒岡:僕がはじめてカトラーを強く意識したのは、ニューヨークのメガネ屋で修業していた頃です。そこの店でもカトラーを扱ってたんだよね。その当時もかなり人気がありましたよ。
ところで、今まで高桑さんと、「何でかっこいいのか」っていうのがずっと平行線で相容れなかったじゃないですか(笑)。
…考えてきましたよ、その答えを。
僕が90年代にカトラーを見た時、あまりにも衝撃的だったんです。アラン・ミクリとかセリマが流行っていた当時、メガネはカラフルだったし、天地の幅がない細いメガネが流行ってたんですよ。
加藤:確かに90年代はフレームが細かったですね…。それまでいわゆるおじさんぽいのをかけていた父が、90年代に急にスタイリッシュな細いメガネを買ってきたのを覚えてます。
荒岡:ほんとに「細いのがかっこいい」っていう時代で、たて幅が狭くて直線的で。流行がどんどん細い方にいってたんですよ。
高桑:90年代以前はたて幅があるのが流行っていた、その反動なんですかね。
荒岡:そうかもしれないね。しかも細いのは強度数の人に合ってたんだよね。(※近視用のレンズはサイズが大きくなると、外側に向かって厚さが出るので、厚みが気になりやすいため。)ミクリもそうだったし、他のブランドも全部細かったんだけど、このメガネは10年くらい前に買った0668なんだけど、当時唯一カトラーだけがたて幅があったんだよね。
加藤:この0668も今見ると少し天地が狭いようですが、当時のギュンギュンに細かったのと比べると、ちょっと違いますよね。
荒岡:そうそう、もちろんカトラーも時代に迎合する部分もあって、何型かは細い形もあったんですよ。だけど必ずメインとなっているのは、たて長だったんです。そこが時代とのギャップで、すごくかっこよく見えて。
高桑:そうですよね。ほかのところはやってないんですもんね。
伝統を重んじるイギリスのメガネ
荒岡:イギリスって伝統を重んじるじゃないですか。リスペクトがあるっていうか。だからデザインも伝統として守ってるし芯がブレないんですよ、ずっと。自分の中に当時の衝撃を受けたイメージがあって、僕はそのイメージを追いかけているのかもしれないと、今回ふりかえってみて改めて思いました。
高桑:イギリスのブランドって、確かにOLIVER GOLDSMITH|オリバー・ゴールドスミスしかり、SAVILE ROW|サヴィル ロウやC.W.Dixey&Son|シー ダブリュー ディキシー アンド サンもずっと変わらないですもんね。
荒岡:そうそう。カトラーはシーズンによってはディレクターを入れたりして、ちょっと今日的なものに歩み寄ったりもするけど、もとになっているベースがブレないから、“今日的なもの”と“カトラーらしいもの”と、どちらも並列でコレクションが出ていたりもしますよ。時代にあったラグジュアリーなものもあるけど、自分が好きなのは今日的な方ではないから、そっちはなるべく排除して仕入れたりもしていましたよ。カトラーは1個1個のデザインもセンスもいいけど、そういうところが垣間見えるのが面白いんだよね。
加藤:確かにブランドのイメージって、最初の印象が強いですよね。
荒岡:そう、僕の中でずっとそのイメージがあって、そのエッセンスがみてとれるものを好きだと思うのかもしれないですね。ブランドの伝統的なところみたいなものを…。たとえば昔、海外のVOGUEかなんかの写真で、当時90年代後半から2000年代前半って、ファッション誌ではみんな細いメガネをかけてたんですけど、カトラーだけがウェリントンのすごく天地が深いべっ甲のおばあちゃんみたいなのをかけさせてて、それも衝撃的でしたね…。時代に逆らってるというか、伝統を守ってるというか(笑)。
高桑:なんか分かってきたような気がします。僕は細リムが流行し出した時にブリンク ベースに入ってきたんですよ。サヴィル ロウとか。当時ベーシックなものが流行し出していたので、どちらかというとカトラーは逆だったんですよね。太いし、野暮ったいし。だからあまりピンときていなかったのかもしれないです。
生地の厚さ、リムの太さの強弱のバランス
荒岡:そうかもしれないね。あと、カトラーの特徴が分かりやすいので見てもらいたいんだけど、昔オリバー・ゴールドスミスと結構比べられたんだよね。0692(写真下)とコンソル(写真上・vice consul-s)とか。
高桑:確かにちょっとコンソルっぽいですよね。こういうのを見るとイギリスっぽいって思います。
加藤:ブランドが違っても、イギリスのクラシックが分かりやすく伝わりますよね。
荒岡:カトラーはオリバー・ゴールドスミスより厚みがない分、軽く見えるんだよね。
高桑:確かにちょっとすっきりしますね。
荒岡:そこがカトラーは変わらないのかもしれないね。OGは厚みがあるのが野暮ったくていいんだけど、カトラーはそういうのがないんだよね。
加藤:1本のフレームの中にリムの太さの強弱がありますよね。上が太くて下が細いとか。すっきりするようになっていますよね。
荒岡:同じように野暮ったく見えても、なんかかっこいいんだよね。バランスかな…。
「カトラーっぽさ」は1つではない
荒岡:かといって、それもあるんだけど、結構細リムも出てて、カトラーのファンが好きなデザインっていうのは複雑で、層が厚いんだよね。デザインのバリエーションがあるじゃないですか。「カトラーっぽい」ってひとことで言っても、「カトラーっぽさ」っていくつもあるんじゃないかと思うんですよね。
高桑:いっぱいあるんでしょうね。多様性がカトラーっぽいのかもしれないです。
荒岡:多様性がある中にブレないものがあるっていうか…。そこがやっぱり魅力だよね。
あと、カトラーがこんなカラフルになってきたのはここ10年だと思うんですよ。それまでは黒とべっ甲とクリアとか。
高桑:新しいカラーをとりいれたのは、デザイナーのマリーさんがやってるんですか。
荒岡:そう、弟子が入ったのはここ3年くらいですよ。それまではずっとマリーがやってて、CUTLER AND GROSSを設立したカトラーさんとグロスさんの、グロスさんの方がヴィンテージマニアだったし、コレクターで、マリーはグロスさんから雇われたんだよね。
お店に立って販売しながらデザインもしてたんですよ。店長だったから。マリーは売るのめちゃくちゃうまいんだよね(笑)。会社が大きくなってきたんで、デザイン専任になったんだけど。
高桑:そういえばお店にバーバラと来た時も、お客さまが他のブランドを見てたのに「こっちの方が似合う」ってカトラーのメガネを勝手に勧めてましたよ(笑)。
一生愛し続けられるブランド
荒岡:そうだよね。前にイギリスのカトラーの直営店で話した時、たまたま入って来た70歳くらいのおばあちゃんが、「昔あなたから買ったのよ」ってマリーに話しかけてたんですよ。70年代とか80年代に買いに来て、今でもずっと買ってるんだって。その時「カトラーってすごいんだな」って思いました。若い人だけ相手にしてるんじゃなくて、当時ファッションピープルだった人が70歳くらいになってもそのまま愛し続けられるブランドってすごいよね。イギリスがそういう国なのかもしれないけど。あんまりないよね、そういうブランドって。
加藤:1つのブランドを身に付けて年を重ねていくってことですか。普通は難しいですよね、素材や色の好みも変わってきますし。カトラーの懐の深さだから、補えてしまうのかもしれないですね。
荒岡:10年くらい前にイギリスに行った時に、舞台衣装を作っているメガネマニアがいて、メガネのコレクターなんですけど、その人と一緒にご飯食べに行った時に、イギリスのメガネって、だいたい形が決まってるじゃないですか。逆にオブジェみたいな変わった形のデザインとかどう思うのって聞いたら、それは「理解できない」って言ってました(笑)。
しかもその人だけじゃなくて、イギリスの大多数の人がそういう変わった形のデザインを受け入れられないらしいんですよ。
高桑:イギリスってデザインがなんとなく完成していそうですよね。あと、イギリスのデザインがプロダクトの源流になっているものも多いですもんね。
イギリスという国のプライド、普遍性
高桑:イギリスはスケートカルチャーなんかはアメリカからやってきて、また別の流行り方をしていますけど、そういう決まったものは変わらないのかもしれないですね。サッカーもそうですよ。サッカーはイギリスのプレミアリーグのスタイルをずっと貫いていますからね。フィジカルサッカーですよね。走って、当たって、シュートする…(笑)。変わんないんですよ、ずーっと。スペインとかはパスでくずしたりとか、体が細いやつでもやっていけますし、ドイツはシステマチックですし。
加藤:本当に国民性が出るんですね(笑)。
荒岡:だからこそモノづくりの面ではフランスとかイタリアの工場は時代に合わせて変化して残っているけど、イギリスはメガネの工場がほとんどなくなっちゃったんだよね。同じものばっかり作ってたら、それはなくなるよね…。
高桑:そんなに量売れなくなっちゃいますもんね。変わらなければ…。心のどこかで曲げられないんですかね。カトラーのメガネは今また時代に合ってきているというか、今の流れのカウンターとして面白いんじゃないかと思います。カトラーのかっこよさって、歴史の部分かもしれないですね。
荒岡:確かにそこはかっこいいんだよね。ブレない。
高桑:カトラーのプライドがあるんでしょうね。
―長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。3人ともカトラー アンド グロスのかっこよさについて、ひとまず腑に落ちたようです。後編ではMDの高桑が、新作の魅力をお伝えします。
こちらもぜひ併せてご覧ください。
Photo: Kota Takakuwa
blinc vase|ブリンク ベース
〒107-0061
東京都港区北青山3-5-16 1F(MAP)
OPEN:平日 12:00~20:00 / 土日祝日 11:00~20:00
CLOSE:月曜日(祝日の場合は振替で火曜日休業)
TEL:03-3401-2835
Mail:vase@blinc.co.jp